研究概要 |
将来の紙のリユースを目指し、光照射によって化学的に発生させた一重項酸素により印字を消色するシステムの構築を目指し、一重項酸素を光照射によって効率よく発生する有機光増感剤ナノ粒子の開発および一重項酸素によって効率よく消色する有機顔料および染料の選定を行う。一重項酸素の新たな応用を創出するものであり、ナノサイズ化による光増感剤の一重項酸素発生能への影響を評価し、かつ一重項酸素によって消色する色素を消色速度によって選定し、最終的には消色可能な光増感剤と色素の組み合わせを提言する。 本年度は、光増感剤ナノ粒子からの一重項酸素の発生能を評価可能で、かつ消色する色素を効率よく選定可能な実験システムの確立を行った。まず有機光増感剤ナノ粒子を目の細かいフィルターでろ過することで、フィルターの片側表面に厚さ1μm以下の薄膜層とし固定化した。これと一重項酸素の吸光プローブとして知られている9,10-anthracenedipropionic acid(ADPA)を塗布した1穴スライドを、間にスペーサーを入れその距離を0.3-3.3mmに調整し、光照射を行う。本実験システムにより、光増感剤ナノ粒子薄膜と基質塗布スライドとを空聞的に分離し、光照射によって発生した一重項酸素のみによる酸化反応を気相中で評価することが可能となった。光増感剤として、Tetraphenylporphin(TPP)およびProtoporphyrin IX(PpIX)、Rubreneを試し、SEM観察よりTPPは50-100nmの球状、PplXは50-1000nmの不定形、Rubreneは50-150nmの球状の粒子であり、断面よりナイロンメンブレンの上層1μm以内に全粒子が存在することを確認した。ADPAの酸化反応の距離依存性は、Einstein-smoluchowskiの関係式から求めた大気中での一重項酸素の予想値とも一致し、一重項酸素の放出が確認できた。APDAの酸化分解速度定数から、一重項酸素の相対発生量はRubrene>TPP>PpIXの順で、有機溶媒中での一重項酸素の量子収率の順と一致した。また、溶液中では深刻である光増感剤自身の光分解も、ナノ粒子という集合構造のため大幅に抑制されるという利点を見いだした。
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