研究概要 |
酸素酸イオンの存在を前提に、その多様性と正極としての実用性の接点を追求すべく、Li_2O-MO-P_2O_53元系でのシンプルな組成の材料探査の盲点を慎重に再検討した。その結果、Li/M比が2で複数電子反応が期待できるラインとピロリン酸ラインの交点に位置する、複数電荷応答の可能性を有する組成の新規縮合リン酸塩Li_2FeP_2O_7を発見し、その結晶構造を決定した。空間群P2_1/c (Monoclinic;a=11.01847(4)Å, b=9.75536(3)Å, c=9.80517(3)Å, b=101.5416(2)°, V=1033Å^3)で指数付けされたこの新物質は、通常の固相法により容易に合成できるばかりでなく、2次元拡散系であることが予見され、炭素被覆処理を施さない1μm程度の粒子サイズでも1電子理論可逆容量で動作し、比較的良好な負荷特性を示した。これまで報告されている鉄系リン酸塩正極の中で最も高い3.5Vの電位を発生する。Mnとの固溶体の合成も可能であったが、固溶に伴い容量は単純に減少した。Li_2MnP_2O_7においては、Mnは2種類のサイトを完全に占有しているのに対し、Li_2FeP_2O_7では、化学量論組成を維持しつつFeは3種類のサイトに分布する。その際、1種類の6配位サイトを完全占有するが、残りの2種類の歪んだ5配位サイトには統計的に部分占有する形で分配される。このため、固溶体は極めて複雑な構造となる。電位範囲を広げると、2電子可逆反応に相当する可能性のある電気化学データが得られたが、副反応と競合している状況であり、今後詳細な検討が必要である。
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