本研究は、結晶格子内の局所構造に依存する酸素の動的緩和の観測と制御の手法を駆使して、格子内移動現象を解明するとともに、環境浄化やエネルギー問題に直接関与する材料群、とくにセリウム、ジルコニウム酸化物などを対象に解析しながら、さらに新規材料開発の原理を追求することを目的とする。酸素の結晶内での動的緩和現象の物性測定方法としては、広範囲の周波数で内部摩擦の測定を行うことを出発点とした。対象とする結晶組成は、結晶内酸素の高度利用材として実用性の高い金属酸化物およびそれらの固溶体、そのほかのヘテロポリ酸などで、新規に合成した新組成を含む物質群であり、さらに陽イオンの多元系における酸素緩和の制御可能性を調べて、緩和種と高速酸素拡散の関係を追求した。このような動的酸素緩和の観測に対しては内部摩擦測定が有効であり、欠陷をもつ結晶におけるイオン(原子)と欠陥の緩和による弾性双極子の変位を利用した酸素緩和物性の研究ができる。セリア安定化ジルコニアの内部摩擦が、セリウムの価数変化により生じる酸素欠陥の寄与によることを直接的に示し、また、セリア添加により内部摩擦強度が低下することを示唆した。また、イオン伝導性にすぐれるZr02-Y203系に対してCe02を添加する組成系において、内部摩擦とイオン伝導度の変化を比較検討する研究を行った。このような酸素イオン伝導の高い物質とその状態を解析したところ、内部摩擦による動的緩和量と伝導性の相関性を見出した。さらに、リートベルト解析の実施ならびに緩和酸素を利用した分光的な研究により材料の応用の可能性を見出した。
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