研究概要 |
環状高分子は、直線分子とは異なる興味深い物性が見出されているものの、選択的かつ大量に合成する汎用性の高い手法が無いため、広く利用されるには至っていない。本研究では、π共役型有機ビラジカルを触媒としたリビングラジカル重合によって、環状高分子を高い選択性で大量合成する汎用的な手法を開拓し、高分子材料科学の新たな局面を切り開く事を目的としている。本年度は、モデルとなる有機ビラジカルを用いて、その基本的なアイディアの有効性を確認した。ビラジカルを原料として、環状の重合開始剤を合成し、スチレンモノマーを用いて重合反応性を検討した結果、実際に重合が進行することが確認された。しかしながら、GPCによる分子量分析の結果、非常にブロードな分子量分布が得られた。直鎖状の開始剤を用い、同じ反応条件で反応させた場合は狭い分子量分布が得られ、リビング重合であること明確に示されたことから、この結果は開始剤の持つ環状構造に起因すると考えられる。すなわち環状構造の中で結合が開裂した場合、スチレンと反応するのに比べて分子内で再結合する速度が圧倒的に高く、一方、スチレンと反応して環が拡大すると分子内の再結合速度が低下するため、分子量の大きい分子ほど反応性が高まり、結果として幅広い分子量分布が得られたものと考えられる。この問題は環状構造に本質的なものであるため、根本的な解決は難しいが、開始剤の環の直径をあらかじめ大きくしておくことで緩和できると考えられる。このように、問題点が見出されたものの、同時に解決方法も明らかになり、さらに、実際に環状高分子が得られるようになったことから,基本的なアイディアの有効性を確認するという当初の目的は果たされたといえる。
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