環状高分子は、直線分子とは異なる興味深い物性が見出されているものの、選択的かつ大量に合成可能な気質汎用性の高い合成手法が無いため、広範な利用はおろか、その基礎的物性の検討に関しても道半ばであるといってよい。本研究では、有機ビラジカルを前駆体とした環状の重合開始剤からのリビングラジカル重合によって、ポリオレフィン系の環状高分子を高い選択性で大量合成する汎用的な手法を開拓し、高分子材料科学の新たな局面を切り開く事を目的としている。本年度は、前年度に見出されたモデル分子系における環状高分子の合成反応をさらに詳細にすることを目的とし、前年度まで高分子の生成の確認や分子量分布の測定に用いていたGPCに加え、飛行時間型の質量分析装置を用いて重合反応の解析を行った。その結果、分子量104のスチレンモノマー単位に相当するピーク群が観察された。この際、ピーク群はいくつかの集団に分かれおり、それらの同定を行ったところ、目的とする環状重合体、分子量が2倍の2倍体、ラジカルユニットの脱離した分子など、様々な誘導体が検出された。これらが反応中に生成したものか、レーザー支援イオン化の条件による分解反応によるものであるかは結論がでていないものの、主要なピーク群には全て環状重合開始剤の成分が含まれており、この開始剤由来の重合物であることが明確になった。さらに、反応活性点を持たない安定な環状ポリマーを生成するため、重合後のポリマーを精製し、加熱したところ、GPC分析から顕著な分子量の低下が認められ、ビラジカルユニットの脱離反応の進行が確認された。最終生成物の構造が実際に環状であるかどうかは未確認であるものの、分子量等からは矛盾無い値が得られており、重合反応や脱離反応など、基本的な反応性に関しては当初のアイディアを実施.確認することができた。
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