逆ペロフスカイト型マンガン窒化物Mn_3AN(A:遷移金属など)を用いて、電気抵抗率やゼーベック係数等の電子輸送係数が温度、磁場といった外部変数に依存しない「無応答材料」を創製する。今年度は、昨年の研究において、現在抵抗標準として用いられているマンガニンに匹敵する低抵抗温度係数を実現できたMn_3Ag_<1-X>Cu_xN系において、さらなる機能向上を目指して、熱処理条件の最適化等を試みた。その結果、ポストアニールの温度を高くするにつれて2次の抵抗温度係数が小さくなることを見出した。例えば、x=0.28では、as-grown、800℃アニール、900℃アニールそれぞれのβが-0.68ppm/K^2、-0.52ppm/K^2、-0.19ppm/K^2となった。これまでのマンガン逆ペロフスカイトの研究から、上述の特性変化は含有窒素量の変化によるものと思われる。また、磁気抵抗の測定から、低抵抗温度係数を示す温度域での磁気抵抗が[ρ(B)-ρ(0)]/ρ(0)にしてマンガニンの1/4程度の小ささであることが明らかになった。これは、この低抵抗温度係数温度領域で電荷キャリアの散乱が極めて強いことで説明される。さらに、昨年度の研究で明らかになった電気抵抗の経時変化については、プレス圧や粒径などの試料焼成条件を変えることで、2ppm/day程度であった経時変化が0.1ppm/day以下まで低減できることがわかった。将来的なデバイス応用を目指した単結晶薄膜に関しては、Mn_3CuNについて成膜に成功した。窒素欠損の問題が残るものの、電気伝導性や結晶磁気異方性の定量的議論が可能となりつつある。
|