研究概要 |
本研究では,原子間力顕微鏡(AFM)を,チャネルタンパク質1分子を操作するためのツールとして用い,我々が提案した高い膜強度を有する自立型脂質二分子膜と組み合わせることにより,イオンチャネルタンパク質の単離から脂質二分子膜への位置を制御した包埋,さらにはチャネル開閉の制御までの全工程をAFMで行うシングルチャネルのマニピュレーション法の開発を目指している.平成23年度は,形成した二分子膜をAFM溶液セルにトランスファーできるようなチャンバーの設計,および,創薬分野への応用を目指したhighthroughput測定のためのアレイチャンバーの設計についても引き続き検討を行い,モデルチャネルを用いて,複数の二分子膜から同時にチャネル電流を記録することに成功した(投稿準備中).また,チャネルタンパク質の操作に必要となるチャネル発現細胞の構築についても検討を開始し,創薬に重要な2種のイオンチャネルを対象に大量発現細胞系の立ち上げを行った.一方,安定化脂質二分子膜の更なる改良についても検討を行った.シリコン微細加工に基づく安定化脂質二分子膜では,シリコン由来の大きな電気容量のためノイズ電流と過渡電流が大きいという問題があったが,熱酸化膜(SiO_2層)およびテフロン層を用いた絶縁層被覆を行いシリコンチップの電気容量を下げることにより,ノイズ電流幅を1-2pA(peak-to-peak),過渡電流を1ms以下にまで下げることに成功した(Micro and Nanosystems, 2012, 4, 2-7.).これは,生体チャネルの単一チャネル電流記録に適した電気特性と機械的安定性とを兼ね備えた人工脂質二分子膜系の構築に成功したことを意味する.
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