本研究の目的は、2物体の間隔を正確に制御できる走査型プローブ顕微鏡(SPM)を利用して、2つの微小物体を高温状態で接近・接触・溶融合・分離させること、その際の電気・力学特性を計測し、その過程で構築されるナノ接点・接合を直視的に観察・解析することである。 この操作・観察・解析には、超高分解能電界放射走査型電子顕微鏡(SEM)と組み合わせることができる独自開発ペンシル型SPMを用いた。現在までに、この装置で試料と探針の1000℃以上の加熱、接近・接触・溶融合を実現した。接触後に引離すことによってナノ結晶を引上げ成長させた。本研究の成果は、ナノデバイスに要求される電気的ナノ接点構築の基礎に貢献する。 本年度は、本装置の小型加熱ヒータ(タングステン(W)フィラメント)に担持させたシリコン(Si)の小塊をフィラメント温度で1400℃以上に加熱した。そのSi部位に、電解研磨で作製したW探針の先端を接触させて、その部位を加圧した。以前に実施したGeの場合と異なり、加熱した部分は容易に溶解しなかった。融点と融解熱の違いによると推定される。しかし、フィラメントと接触しているSi部位でウィスカー状結晶が多数成長した。フィラメント温度をさらに上昇させると消失した。このウィスカー状結晶を成長させる最適温度があると推定される。接触させたW探針にもSi小塊の一部が移動し、その表面にもウィスカー状結晶が成長することを確認した。SEM付属のEDSで分析したところ、ウィスカーからはSiとWが検出された。また、探針とフィラメントを外して走査型オージェ電子顕微鏡(SAM)で分析したところ、ウィスカー部からWが検出された。Wが表面偏析したタングステンシリサイドの成長であると推定される。試料と探針の近接部位間での局所的な気相成長が起きることを示唆しているので、今後、ウィスカー探針の作製などへの応用展開を図る。
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