近年テラヘルツ電磁波の技術が格段の進歩を遂げ、様々な分野に応用されようとしている。しかし、光源、検出器、光学素子などがまだ十分発達しておらず、また、極めて高価である。本研究では、ミクロンオーダーの金属線などが簡便に作製できるスーパーインクジェットプリンタを用いて様々なテラヘルツデバイスを簡便・高速に作製する技術を開発するとともに、これらを1枚の基板上に作製したマイクロセンシングシステムを作製することを目的としている。 本年度は、スーパーインクジェットプリンタを用いて、半絶縁性基板上に分割リング共振器や閉リング共振器などのメタ原子を装荷したテラヘルツ波放射用光伝導アンテナを作製した。インクとしては、銀あるいは金ナノペーストを使用した。分割リング共振器については、大きさ、テラヘルツ波励起用電極ギャップとの相対位置、並びに、ギャップの向きなどを変化させたものを作製した。テラヘルツ時間領域分光システムを用いて放射時間波形を測定し、フーリエ変換によ李スペクトルを求めた。その結果、分割リング共振器の配置によりスペクトルが大きく変化することを見出した。特に、テラヘルツ波励起用電極ギャップに対して、対称性を崩すように分割リング共振器を配置したアンテナ素子からは、LC共鳴に対応する周波数の放射強度が増強されることがわかった。一方、対称に分割リング共振器を配置した場合、および、閉リング共振器を装荷した場合には、このような共鳴増強は見られなかった。さらに、放射スペクトルの偏光特性を測定したところ、対称的な配置では、直線偏光であるのに対し、対称性を破るような配置では楕円偏光となることもわかった。以上のことは、波長よりもかなり小さなメタ原子を装荷することで、テラヘルツ波放射特性(スペクトル、偏光)がかなり自由に制御できることを意味している。
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