研究概要 |
本年度は、解剖学的に精密なニホンザルの手部筋骨格モデルを用いて、ニホンザル精密把握動作の逆動力学的解析を行った。ニホンザル1個体に、モニタの表示に合わせて母指と示指でレバーを開閉するタスクを行わせ、そのときの手指運動を4台のデジタルビデオカメラで撮影し、把握運動中の手指の3次元運動を定量化した。このとき、指先からレバーに作用する反力も計測した。計測した運動データに構築した筋骨格キデルをマッチングしてやることにより、把握時の骨格運動を推定し、精密把握時の栂指と示指の骨格運動とそのときの筋走行の変化を計算機内に再現した。 逆動力学的計算に基づいて、計測されている指先力を発揮するために必要な各筋の筋張力を算出した。逆動力学計算とは、計測した運動データから運動方程式に基づいて筋張力や筋活動パターンを逆算的に算出する手法である。すなわち手に作用する力と運動の関係を運動方程式として記述し、計測した運動データとレバー反力を代入し、筋張力を推定した。ここでは筋応力の三乗の総和を筋張力配分の評価関数として各筋張力を求めた。本力学モデルの計算には、逆動力学解析ソフトウェアAnyBody Modeling System(Anybody Technology, Denmark)を用いた。その結果、レバーに反力が作用するときに第一背側骨間筋,母指内転筋,示指浅指屈筋の筋活動は大きく、短母指外転筋のそれは小さくなり、逆にレバーに反力が作用しないときにその逆となるなど、筋張力波形は把握時の筋電図波形と類似し、モデルの妥当性が示唆された。本研究で構築した枠組みは、ニホンザルの精密把握運動において冗長自由度をどのように制御しているのかを解析する上で有効なツールとして寄与すると考えられる。
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