我々は、非晶質シリカガラスに高エネルギー水素イオンを打ち込むと、高密度化が生じ、密度上昇部の屈折率が高くなるので、これを利用すれば機能性光透過材料が作り出せることに気付き、基本特許を出願・取得した。つぎに、この実用化を目指し、産学連携プロジェクトなどを実施し、これまでに、上記長周期グレーティング、偏波保持・脱偏波器、方向性合波・分波器等の導波路型光制御デバイスの開発に成功した。 本研究は、高分子光導波路においても同様に、イオン照射により屈折率上昇を誘起させられるかどうかを検証することを目的としている。本年度の実験として、Si基板上にスピンコート法により、膜厚8.0mの全フッ素化ポリイミドを堆積させ、加速エネルギー950keVのHe+イオンを注入したのち、表面段差プロファイルを計測したところ、イオンビームの幅1.0mに対して、全半値幅0.97mmとほぼ一致した凹みが見られた。1.1×1016cm-2の注入量における凹み約270mより、全フッ素化ポリイミドがイオン注入方向に押しつぶされ高密度化が起こっていると仮定し、体積変化率を算出したところ、6.7%圧縮されたと見積もられた。これより、屈折率上昇率を計算すると、n=0.043となる。すなわち、イオン注入部の凹みが全て高密度化に起因していれば、全フッ素化ポリイミドの屈折率は、4.3%上昇することになる。これは、シリカガラスにイオンを注入した場合に生じる屈折率の最大変化量1.0%をはるかに超える大きな値であり、高分子光導波路の高機能化に十分寄与できる可能性があることが分かった。
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