本研究は、ドーパント原子を用いたシリコン系原子デバイスにおいて、BとPの共存系で大きなポテンシャル凹凸を実現し、これにより室温に迫る高温動作を目指すものである。H22年度は、主に以下の成果を得た。ほぼ期待通りの成果を得ることができた。 (1) チャネルパターンをワイヤ状とディスク形状に加工し、多数のリンドナーが作るポテンシャルとデバイス特性の関連を調べた。その結果、チャネル長が短くディスク型であると1個のドナーで特性が決まることを統計的に見出した。また、BとPの共存系の予備実験としてナノワイヤ状pn接合を作製し、ワイヤ径が小さいと室温でもBとPの共存系であるpn接合領域の性質によりランダムテレグラフノイズが現れることを見出した。これは、B-P共存系に由来する可能性がある。 (2) 第一原理計算に基づいて安定配置の理論的検討を行った。単一リンおよびボロン原子を有する直径lnm・長さ2nm(<110>方向)のシリコンナノロッド(表面は水素終端)を金ナノ電極(111)で挟んだ素子構造を用いた。単一ドーパント原子の位置を、ナノロッド中心から、(1)ロッド側面に向かう方向(Y方向)、および(2)ロッド端に向かう方向(Z方向)に移動させながら構造緩和計算を行い、形成エネルギーを計算することで構造安定性を解析した。その結果、ドーパント原子をY方向に動かした場合は、ロッド側面からシリコン1原子層内側の位置で形成エネルギーが極小となることから、これが安定位置であることがわかった。一方、Z方向に移動させた場合には、ロッド端近傍でドーパント原子に近接するシリコン・水素原子の顕著な位置の変化とともに形成エネルギーの大きな低下が見られた。
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