電磁界解析の分野で、波長に比して大きな散乱体を扱う高周波近似解法において、原理的には周波数に計算量が依存しない算法を提案し実証する。幾何光学に象徴される散乱現象の局所性を定量的そして陽に表現し、従来の低周波数解法にこれを反映した、概念の全く新しい近似計算法を構築する。散乱体上の全表面の誘起電流を一度に求める従来手法と対照的に、観測点毎に定義される、必要最小限の領域についてのみ誘起電磁流を求めるもので、この研究では領域の輪郭の定義にフレネル数を適用することの妥当性の検証と、曲面や多重反射を含む具体的な散乱問題への適用の基礎を構築する。 平成22年度は、散乱現象の局所性を、定量的に表現する指標として、フレネル数を用いた領域の定義を行い、高周波散乱現象の概念の確認と、これを積極的に大規模問題の計算量低減へ適用する方針を示すとともに、精度の評価と計算量の低減効果を評価した。平成23年度は、これらの検討を深め、以下の項目に知見を得た。 ・放射面積分の局所化過程において、複数の散乱中心が接近した際に生じる誤差を特定し、重み関数の急峻な変化がもたらす人為的(Fictitious)な寄与が原因であることを見出した。これを解消する滑らかな新しい3次元重み関数を提案し、精度向上に成功した。 ・局所化の窓関数およびアルゴリズムを自作のモーメント法と比較し、電流分布を求め、計算量低減効果を確認した。市販シミュレータと組み合わせ任意曲面の問題を扱うためには、フレネル数と散乱体の交線により輪郭を定義する必要があるが、市販シミュレータの開示情報が十分に得られず、このアルゴリズムは完了するには至らなかった。 ・今後、多重散乱を生じるさまざまな形状に対する検証に備え、後方散乱断面積の実験結果を取得し、市販シミュレータに加えもう一つの参照解となる「修正物理光学法と繰り返し幾何光学法を相補的に用いる解法」の手順を整備した。
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