研究概要 |
ナノスケールかつパッシブなTHzイメージング技術を実現するには,近接場プローブを計測対象の極近傍において,高速・高精度で走査する機構が必要不可欠である.そのため本研究では,以前申請者が代表した若手研究(スタートアップ平成20-21年度,課題番号 : 2086002)において開発した走査プローブ顕微鏡を軸として,THzナノ顕微鏡を構築し,パッシブなナノイメージングを行うことを目標としている. 平成23年度は,昨年度作成したTHzナノ顕微鏡を利用して金属のエバネッセント波測定を行い,またアプリケーション展開へ向けてナノサーモメトリーのデモンストレーションを行った.実験値を解析するにあたり,金属からのTHz近接場信号の要因を表面プラズモンポラリトン(SPP)と考えて解析を行っていたが,実験値との乖離が生じ,全く予想外の信号要因であることが確認された.実際,THzナノ顕微鏡によって検出される金属表面のエバネッセント波の要因が,伝導電子の熱揺らぎであることが理論・実験の両面から確かめられた.伝導電子の熱揺らぎは10年前に仏グループが理論的に予言し,様々なグループが検出を試みるものの技術的な理由により検出例が無かったが,本研究は初めて熱揺らぎを観測した例となり,物理学上非常に意義深い結果となった.熱揺らぎはBose分布に従うため,THzナノ顕微鏡のアプリケーションの1つとしてナノ分解能の顕微鏡が考えられる.そのデモンストレーションとしてNiCrやAu配線上のパターンに電流を流した状態で近接場測定を行い,非侵襲かつナノ分解能というこれまでに存在しなかったスペックのサーモメトリーとして利用できることを確認した.
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