わが国では全国1000点以上の観測網が国土地理院によって整備されており、30秒毎の電離圏全電子密度(Total Electron Content; TEC)値が得られる(GPS-TEC観測)。一方、研究代表者らは、高度700km付近を飛翔する低高度衛星から地上までのTEC値を計測するディジタル受信機を開発している(衛星ビーコン観測)。本研究では、(1)この2種類の電離圏TEC観測を組合せ、新世代の電離圏複合トモグラフィを研究開発する。(2)JAXA宇宙科学研究所による観測ロケット実験で実施されるロケット搭載ビーコン観測に参加する。(3)さらにGNSS(GPSをはじめとする電子測位)に基づく航空航法についての研究を行った。 平成22年度には、(1)に関連しては、衛星ビーコン観測のみに基づく電離圏の2次元トモグラフィを開発し、潮岬一信楽-福井の3点観測から電離圏電子密度の子午面分布を調べたところ、夏の夜間には高緯度側の電子密度が低緯度よりも大きくなるという通常とは逆の分布(Mid-latitude Summer Nighttime Anomaly(MSNA)と名付けられた)を示すことを明らかにした。一方(3)に関連しては、電離圏電子密度の水平分布によって生じる電離圏遅延の空間変動がGNSS利用の航空航法に与える影響について調査を行った。IONGNSS 2010などの調査を通じて、航空航法支援のための電離圏情報に対する期待があることが分かった。なお(2)についてはJAXA宇宙科学研究所がロケット打上げを平成23年度に延期したため研究経費の一部を平成23年度に繰越した。観測ロケット実験は2012年1月12日に成功裏に実施された。
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