わが国では全国1000点以上の観測網が国土地理院によって整備されており、30秒毎の電離圏全電子密度(Total Electron Content; TEC)値が得られる(GPS-TEC観測)。一方、研究代表者らは、高度700km付近を飛翔する低高度衛星から地上までのTEC値を計測するディジタル受信機を開発している(衛星ビーコン観測)。本研究では、(1)この2種類の電離圏TEC観測を組合せ、新世代の電離圏複合トモグラフィを研究開発する。(2)JAXA宇宙科学研究所による観測ロケット実験で実施されるロケット搭載ビーコン観測に参加する。(3)さらにGNSS (GPSをはじめとする電子測位)に基づく航空航法についての研究を行った。 平成24年度には、(1)に関連しては、GPS観測網のデータを用いた3次元トモグラフィ解析プログラムを開発した。従来のトモグラフィー解析では電子密度分布のモデル値を初期値として開始するが、今回の解析では拡張された最小二乗法を用い、電子密度の空間勾配が過大にならないよう重み付けを行った。ただし密度勾配の事前情報としてのみであるがNeQuickモデルを参照している。さらに自由度を変化させた多数のトモグラフィー解析を試行した上で、最も合理的な解を選ぶ手法を適用した。結果は良好でほぼ自動的に電子密度分布を得るまでの開発に成功した。ただし衛星ビーコン観測データを包含するトモグラフィ解析手法の開発については途中段階で研究期間の終了を迎えた。(2)については2012年1月に打上げられた観測ロケットからのビーコン電波の解析を行って全電子数の推定に成功した。(3)に関連しては、電離圏電子密度の水平分布によって生じる電離圏遅延の空間変動がGNSS利用の航空航法に与える影響について調査すべく、赤道大気レーダーの周辺にGPS受信機を設置して観測を実施した。
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