本研究はサンプル値制御理論を用いたフィルタを用いて微分方程式の新しい差分解法の得失を明らかにすることを主たる目的とした. サンプル値制御理論は,連続時間信号をディジタルで処理する点,微分方程式の差分解法と共通の問題であり,現実に音楽,画像信号処理等において有効な成果を上げていることから,この主題においても成果の上がることが期待された.ことにこれまでの差分解法では,問題を生じ易かった系の時定数に大幅な開きがある,いわゆるスティッフな系,あるいは大きな入力の入る系などに対して,有効な突破口となり得ることが期待された.しかしながら,通常の基本的な線型集中定数系についてはまずまずの結果が得られたものの,上記スティッフな系等については必ずしも所期の結果が得られないということが,シミュレーション結果からはほぼ明らかとなった. これについては様々な原因が想定され得るが,一つにはこのサンプル値理論によるフィルタが,系の定常特性を評価規範として設計されている結果,過渡応答については必ずしも優位性を持たないこと,有限時間の応答だけを問題にする場合,サンプル値フィルタが優位性を発揮するとは限らないことが明らかとなった.これにについては,時不変でない特性フィルタの開発を勧める他ないと考えられる.この原因を明らかにしたことは,今後大きな意味を持ち得るものと考える. その他,入力信号に位相遅れ歪が存在した場合,それをディジタル処理によって取り除くことが可能であることが見出された.これは音響,音声復元においてことに有効であり,今後の逆問題への展開が期待される.具体的には,観測過程において仮想的に位相遅れ歪が存在するものとして,設計フィルタにその逆特性を持たせることによって,通常存在する位相歪を低減するフィルタの設計を可能とするもので,音響,音声の復元に非常に有効であることを確認した.
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