本研究は過疎地・離島で主要な問題である医療の状況を考えながら、住民の日常生活を含めた交通政策実現可能のための条件を考え、いくつかの交通政策を検討するものである。出発点としてまず「通院」と「緊急(救急)医療」を取り上げ、「通院」を含む日常交通においては「時間軸上での外出行動の需要」に焦点をあてながら、交通政策が及ぼす過疎地・離島における「生活圏確保・拡充の可能性」を探る。また、緊急(救急)医療に関しては、医療データ(症例等)を分析し、「搬送時間と救命」の関係を明らかにしながら可能な交通政策を検討する。「通院」についてはいくつかの条件(離島と本土の位置関係、離島の構成等)を比較調査するのが骨子で、初年度である今回は本土と比較的近距離(1日往復可)である宗像市大島、中距離(100km程度)の鹿児島市三島村について、日常の「通院」と生活行動に関する調査を行った。三島村については現在調査中である。通院行動にはその他目的の行動、例えば買物などが付随することが見られるが、宗像市大島での調査結果では、買い物行動が多く、また、歯科、眼科、内科、外科ごとにそのパターンが異なることが分かった。これを考慮に入し、離島から病院までの所要時間あるいは病院と買物店舗との位置関係(時間的な)を考慮した通院と買物の外出行動のモデルを作成し、大島のデータを用いてキャリブレーションを行った。モデルは所要時間、診療科目に応じて通院と買物を一度に行うかどうか、またその際どのようなスケジュールを採用するかを表現するモデルとした。救急医療に関しては、九州のいくつかの病院からのデータを用いて、急性心筋梗塞、クモ膜下出血、脳梗塞、脳出血、大動脈瘤解離の5疾患と多発外傷について非集計モデルを用いて「搬送時間と救命率の関係」を搬送時間、個人属性、重症度、初期処置の有無等を説明変数として再現し良好な結果を得ることができた。
|