研究概要 |
排水の生物処理に導入されるろ過膜は、固液分離に用いられるが、微生物の凝集体およびポリマーで形成されるバイオフィルムによる目詰まりが問題となっている。この目詰まりの引き金になる微生物間情報伝達(クオラムセンシング)物質を遮断し、目詰まりが抑制可能な酵素固定化型ろ過膜の開発を行った。ポリエチレン製の精密ろ過膜にエポキシ基を有するグリシジルメタクリレート(GMA)をグラフトした。その後、ジエチルアミン溶液に浸漬させることにより、GMAのエポキシ基をジエチルアミノ基に置換した。ここに情報伝達物質(アシルホモセリンラクトン(AHL))のアシル基を分解可能な酵素であるアシラーゼを固定化し、酵素固定化型ろ過膜を作製した(DEA-酵素固定化膜)。DEA-酵素固定化膜はAHLの分解能を有していたものの、ろ過膜上への細菌の付着が避けられず、細菌細胞が付着しにくい表面を準備することができなかった。 そこで、疎水性のタンパク質に対して付着抑制効果がある、N,N-ジメチル-γ-アミノブチル酸塩(DMGABA)をジエチルアミノ基の替わりに用いた。GMAをグラフトしたポリエチレン製ろ過膜にDMGABAを導入し、アシラーゼの固定化を図った(DMGABA-酵素固定化膜)。その結果、0.12mg-enzyme/cm^2の酵素の固定化が可能であった。固定化酵素の重量当たりのアシル基の分解速度は、懸濁している酵素と比較すると約2割であるものの、1.32mmol/mg-enzyme/minの分解速度を得ることができた。次に、Agrobacterium tumefaciensをモデル細菌としてバイオフィルム形成試験を行ったところ、DMGABAを導入した膜にアシラーゼを固定化することにより、バイオフィルムの形成を7分の1以下に抑えることができた。
|