ニオブ酸リチウム(LiNbO_3:LN)は、調和融解組成(c-LN)と化学量論組成(s-LN)は一致しない。育成にはc-LNが良いが、結晶品質はs-LNが良い。我々は、19世紀初頭にドルトンが提唱した「化学量論」の本質を根本的に見直し、あえて不純物であるMgと電荷中性に必要な欠陥である空格子点を導入し、化学量論の概念を拡張した。その結果化学量論組成の存在を点から線に拡張し、この線上で調和融解となる組成、すなわち、cs-MgO:LN((Li_<0.906>Mg_<0.047>V^<Li_<0.047>>NbO_3)を見出すことに成功した。具体的な研究事項は、 (1)不純物、欠陥を含む新しい化学量論の概念を熱力学的に導出した。 (2)上記の熱力学的解析の中で、結晶が化学量論であるためには、すべての構成化学種の活量が1であることを示した。さらに調和融解でもある時は、融液からの結晶成長時に、すべての化学種の平衡偏析係数が1となることを導いた。 (3)LNを始め、酸化物融液の多くにはイオン種が存在する。これらは結晶成長に伴い成長界面に偏析し、結晶化起電力(c-EMF)が発生する。もしすべての化学種の偏析係数が1であれば、偏析が起こらずc-EMFはゼロとなる。cs-MgO:LNのc-EMFはゼロとなる。従ってcs-MgO:LNの全ての化学種の偏析係数は1となり、調和融解組成と化学量論組成が一致する組成であることが実験的にも証明された。 その結果、育成が安定かつ容易で、しかも、優れた光学的性質を持つ全く新しいLN結晶、cs-MgO:LNの創成にいたった。
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