研究概要 |
今年度は当初の計画に従い,まず同時スパッタリング成膜が可能な装置の準備(次年度より使用開始予定)と並行して,NiOおよびWO_3の2つの酸化物薄膜の成膜条件による膜質制御の検討を行った。反応性スパッタリング時のAr/O_2比およびチャンバー圧力,基板加熱温度を変えつつ,NiOとWO_3の結晶性,光吸収特性および抵抗率の評価を行った。NiOは,高O_2分圧下では結晶化が生じにくくなると同時にNi空孔濃度の増大に起因すると思われる導電性が急増した。一方,低O_2分圧下で基板加熱をして成長させた結晶性薄膜では,初期抵抗は大きくなるものの,いわゆる抵抗スイッチングを示す領域となった。本研究では動作中の抵抗変化は好ましくないため,低O_2分圧下のまま,基板加熱温度を低下させた成長を行ったところ,低結晶性の高抵抗膜が安定して得られる領域を見出した。これらによりNiOの物性の理解に基づきながら抵抗率を制御して作り分ける指針が得られたと考えている。また,WO_3については,まだ定量的な検討が十分に行えていないものの,O_2分圧と共に抵抗率は単調に増大することを確認している。一方,光吸収については分光エリプソメトリーを用いた評価により,膜厚30nmのNiO薄膜のバンドギャップは成膜条件や成膜後の熱処理によってもほとんど変化しないこと,またバンドギャップ以下のエネルギー領域に強い光吸収が現れることからギャップ内準位の存在が示唆されるとともに,この領域の光吸収が成膜後の熱処理によって変化することが観察された。まだこれらの変化と欠陥準位との相関は解明に至っていないが,NiOの光透過性に関する重要な情報が得られつつあり,次年度にさらに詳細な検討を行ってデバイス作製へ結び付ける予定である。
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