遷移金属酸化物を電子機能性材料としての応用展開をするにあたって、その構造・機能選択の自由度を拡大すべく、自然界には元来存在しない遷移金属『酸素化物』(ここでは酸素分子(O_2)の陰イオンによる化合物)の物質開発とその機能展開を試みている。液体アンモニア中での溶媒和電子によるバーチ還元法を基礎とし、新物質の合成を行うとともに、アンモニア溶媒を同時に輸送媒体として機能させての液層輸送法により新規の遷移金属酸素化物(超酸化物)薄膜の合成を目指している。平成22年度は液層輸送酸化物薄膜製造装置の開発・改良が主たる目標で、アンモニア溶媒の閉鎖循環システムを組み込こんだ安全性の高い酸素化物製膜装置による合成実験環境が整いつつある。金属酸素化物は分子状酸素に電子を付加して還元状態にて原料金属Mと反応させることで生成させるため、安定な酸素化物の生成あっては分子内の酸素は常に電子が供給された"還元"状態である必要がある。そのため電気的に陽性な金属M'(電子ドナー金属)がCo-dopeされた複合酸化物(M_XM'_<1-X>)O_<2y>が酸素の過酸化状態の安定化には有利と考え、アルカリ金属・遷移金属の組み合わせによる安定な新物質の設計を行っている。一方で、金属過酸化物・超酸化物の実際の応用のターゲットとして化学センサーに着目している。紫外光照射により酸化物表面に酸化力の強い(すなわち電子吸引性の)過酸化物に由来する表面準位が生成することが知られているが、この現象を含め半導体化した遷移金属-アルカリ金属複合酸化物・酸素化物薄膜素子がベンゼンなどの難反応性有機分子の検出に応用できないかの検討を始めており、紫外光照射下でのNi-Li-O酸化物系において芳香族揮発性有機物の検出が可能であることを示唆する成果が出はじめている。
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