研究課題/領域番号 |
22656143
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 吉伸 東京大学, 大学院・工学系研究科, 助教 (30198254)
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キーワード | バーチ還元 / 溶媒和電子 / 金属過酸化物 / 励起状態 / 界面準位 / 分子磁性 / 化学センサー / VOC |
研究概要 |
自然界には存在しえないとされていた分子様結晶である遷移金属過酸化物/超酸化物(遷移金属酸素化物と命名)を液体アンモニア中の溶媒和電子を還元剤とするバーチ還元法変法を用いて人工合成することを目指し、そのバルク合成法の確立から機能材料への応用展開をにらんでの薄膜合成プロセスにまで言及する。金属酸素化物にあっては、陰イオンの酸素分子イオンが酸素分子の電子構造に由来する磁気モーメントをもつため、酸素の磁性を絡めたユニークな磁気秩序構造の発現または分子様結晶特有の外場応答性の良さを反映した特異な輸送特性が発現される可能性さえある。当該物質が実現可能であればイオン間静電相互作用がイオン結晶並みに強い特異な分子結晶になりうる可能性を秘めており、その結晶構造・基礎物性データの蓄積が進めば分子性酸化物結晶という新規物質群を学会に提供することになる。 本年度は、昨年度に完成したバーチ還元反応容器を用い、アルカリ金属イオンと特にスピン軌道相互作用による特異な物性が期待される5d遷移金属イオンとの組み合わせにより可能な限り多種類合成を試み試みたが、過酸化物・超酸化物に特徴的な物性は観測されなかった。X線回折、元素分析、輸送特性、磁気特性などの物性評価を通じてその物質群共通にみられる物理的・化学的特徴の把握につとめた。また紫外光誘起表面過酸化物については、現象を効率的に電気信号に変換するデバイスを用いて化学センサー特性を評価し、芳香族VOCに対する感度・選択性の改善に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
液体アンモニアを使用するバーチ還元法はによる金属過酸化物の合成は、反応中の爆発の危険性があることから十分に安全を確かめ、慎重に計画を遂行しなければならない。安全確保に十分な時間をかけたことが計画の遅れの原因となっていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
遷移金属超酸化物は酸素分子と金属イオンの集合体であるからイオン間相互作用も強いといった特異な物性の分子結晶になるものと推定される。また分子結晶特有の性質である圧力印加による大きな格子変形は、原子間距離の大幅な変化とそれに伴う輸送特性、磁性のドラスティックな変化を誘起する可能性もある。圧力誘起物性は基板エピタキシャル歪により負の圧力効果を含めて比較的容易に実現されることから、以前より計画中である金属酸素化物の液相エピタキシャル成長を試み、その実現の如何によって圧力誘起物性という新たな物性開拓に展開してゆく可能性がある。
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