層状構造を持ちp型/n型両方の伝導特性を示す酸化物半導体CuInO_2を対象物質に選択した。RFスパッタリング法を用いて薄膜化を行うためには高密度のCuInO_2焼結体が必要であるが通常の焼結では相対密度~50%程度の焼結体しか得られなかった。そこで新たにSPS法を用いた焼結体の作製に取り組み、相対密度>80%の焼結体を得る条件を確立した。これによりCuInO_2薄膜作製が可能となり、配向膜を得るための条件探索を開始した。 太陽電池実現のためにはホールと電子のキャリア分離が重要であり、これには電極材料の仕事関数とCuInO_2の真空準位を基準とした価電子帯上端(VBM)や伝導帯下端(CBM)のエネルギー位置が重要となる。本年度はSPS法で作製した高密度焼結体を用いてUPS-IPES測定を行うことでVBMとCBMのエネルギー位置の決定を行った。まずHeI励起線(21.2eV)を用い試料に電圧を印加して行う真空準位の測定によりCuInO_2の仕事関数を決定し、価電子帯のスペクトルからVBM-フェルミ準位のエネルギー差を見積もることでVBMの真空準位からのエネルギー位置を決定した。次に逆光電子分光(IPES)により伝導帯の測定を行った。UPS測定の際には認められなかったチャージアップ効果が認められ、スペクトルは時間経過とともにシフトした。これは試料に流れる電流がUPS測定時に比べIPES測定時は約1000倍であるためと考えられる。今回は暫定的に30分以内で得たスペクトルを用いてCBMを決定した。この値は光学ギャップを用いて決定した結果と良い一致を示した。
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