研究概要 |
研究代表者らは,ホウ酸塩ガラスでホウ素の同位体を混合すると粘度が約40%(等粘度温度で約10℃)も低下する混合同位体効果を見出した。その研究は高粘性液体の流動機構の解明につながると考えられる。またこの効果を利用すると工学的にも,従来にない温度-粘度特性を有する電子部品焼結用ガラスを開発できる可能性がある。本研究の目的は,種々のガラスで同位体の混合により,粘度,ガラス転移温度,比熱,熱膨張率,熱伝導率がどのように変化するかを研究し,高粘性流体の流動機構の解明と新規ガラス開発を目指すことである。 今年度は,アルカリホウ酸塩に比べ実用ガラスに組成が近いアルカリ土類ホウ酸塩について,成形温度付近での粘度の同位体効果についても研究した。その結果,アルカリ土類ホウ酸塩ではホウ素の同位体の混合による粘度変化がアルカリホウ酸塩の場合より大きいことを発見した。この差は,アルカリ土類ホウ酸塩ではアルカリホウ酸塩よりもホウ素の4配位ホウ素の割合が小さいため,ガラス中の構造単位の多様性の効果による格子振動モードの多様性が小さかったたことが原因と考えられる。 今年度はまた,Na_2O-B_2O_3ガラスにおける熱拡散率の温度依存性を室温からガラスの軟化温度付近まで調べると共に,ガラス転移温度付近で熱拡散率への緩和挙動を調べた。その結果,熱伝導率における混合同位体効果の存在の発見(同位体を混合すると熱拡散率が小さくなる)という昨年度の成果に対し,同位体の混合によりガラス転移温度付近で,仮想温度が高くなってフォノンの散乱が増大するため熱拡散率の低下を招くというプロセスの重要性を明らかにできた。 また粘性の同位体効果に対し分子振動論的な理解を進めるため,ホウケイ酸塩ガラスの赤外吸収スペクトルの温度依存性を室温から融液状態まで測定した。その結果,3μm付近の吸収が大きな温度依存性を示すことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
粘度へのホウ素の混合同位体効果で,アルカリホウ酸塩よりアルカリ土類ホウ酸塩の方が大きな効果が存在することを見出した。これは当初の計画を上回る成果である。熱伝導率における混合同位体効果の存在の発見という昨年度の成果に対し,Na_2O-B_2O_3ガラスにおける熱拡散率の温度依存性およびガラス転移温度付近での緩和挙動の研究に基づき,同位体の混合による仮想温度変化の重要性を存在を明らかにできた。これらのことと,ホウ素以外の同位体の研究に遅れが生じたこととを合わせると,おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
ホウ素の混合同位体効果について,アルカリ土類ホウ酸塩ガラスがアルカリホウ酸塩ガラスよりも大きな効果を有するという重要な知見が得られたことから,平成24年度はホウ素の同位体効果に研究を集中する。具体的には,熱伝導率に対する同位体効果について更に詳細な検討を進めるとともに,アルカリとアルカリ土類を同時に含むガラスの粘度測定を行うことにより,同位体効果の支配要因解明に取り組む。また,物性の支配要因としてガラス構造についても検討する必要があるため,室温での構造をラマン散乱と赤外吸収により,高温融液での構造を赤外吸収により研究する。
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