研究代表者らは,ホウ酸塩ガラスでホウ素の同位体を混合すると粘度が約40%(等粘度温度で約10℃)も低下する混合同位体効果を見出した。その研究は高粘性液体の流動機構の解明につながると考えられ,また工学的にも,従来にない温度-粘度特性を有する電子部品用ガラスを開発できる可能性がある。本研究費による平成23年度までの研究では,粘度や比熱だけでなく熱拡散率にも混合同位体効果が見られることや,アルカリ土類ホウ酸塩ガラスではアルカリホウ酸塩ガラスよりも大きな混合同位体効果を示すことを見出した。 平成24年度はアルカリ土類金属とアルカリ金属の酸化物を共に含むホウ酸塩ガラスを作製し,両者の比によって粘度に対する混合同位体効果がどのように変化するかを研究した。また,ラマン散乱測定より構造を調べた。研究に用いたガラス組成は,粘度化測定時に結晶化しない組成として,73B2O3・yNa2O・(27-y)(0.667CaO+0.333BaO)を選定し,ホウ素の同位体比は10B:11B=1:0,0.5:0.5,0:1の3種類とした。その結果,アルカリ土類のみのときは同位体の混合で等粘度温度が10℃も低下したのに対しアルカリ酸化物を5%程度入れるだけで温度低下は3℃程度になり,アルカリ酸化物の量がさらに増えると混合同位体効果は見られなくなった。他方でラマン散乱測定からは,アルカリ酸化物が増えるに伴い3配位ホウ素が減り4配位ホウ素が増えることが示された。 本研究者らの過去の研究でアルカリホウ酸塩においても,4配位ホウ素の割合が少ないアルカリ酸化物の量が10%以下のガラスでは混合同位体効果が生じることが分かっている。このこととアルカリ土類を含む系の上記の研究を合わせると,4配位ホウ素が増え同位体による構造多様性よりも配位構造の多様性の影響が大きくなると,混合同位体効果は見られなくなるものと考えられる。
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