本年度はシリコン(Si)結晶繊維の生成条件の解明を目的として研究を進めた。本手法ではNa-Si溶液から溶媒であるNaを蒸発させてSi結晶を作製するため、Naの蒸発条件が重要となる。そこで、温度勾配を制御できる電気炉を用いて、様々な原料組成および加熱温度条件のもとでSi結晶を作製し、Na-Si溶液が安定に存在する温度条件や、Na-Si溶液からNaが蒸発してSi結晶が生成する条件などを明らかにした。具体的には種々のモル比で作製したNa-Si溶液を温度勾配付きステンレス管内で700~900℃で加熱し、得られた試料の結晶相をX線回折法で同定した。Na-40mol%Siの試料を700℃で加熱してNaを蒸発させた結果、Siクラスレート化合物が生成した。また同じ試料を800℃または900℃で加熱したところ、Na-Si溶液からNaが蒸発して、Siの厚膜状結晶や粒状結晶が得られた。本研究より、各原料組成のNa-Si溶液からNaが蒸発する温度条件が明らかになった。 また、作製条件によっては繊維状ではなく粒状のSi結晶が得られたことから、作製条件によってSi結晶の形態を制御できることが明らかになった。得られた粒状Si結晶の不純物濃度を測定したところ、原料の結晶に含まれていた不純物が結晶の表面に掃き出され、精錬効果があることが確認された。同様の手法で作製する繊維状Si結晶においても精錬効果が期待される。 本研究を進めている中で、第三元素の影響を調査していたところ、Na-Si-Bの三元系において新規化合物Na_8B_<74.5>Si_<17.5>を発見した。新規構造の本化合物は様々な工業分野への応用が期待できる。
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