研究概要 |
DLCはダイヤモンドとグラファイトの特性を兼ね備えており,動力源の省エネルギー化だけでなく工具の長寿命化,太陽電池への応用が研究されているなど,その多様な特性から環境負荷低減技術をはじめとして様々な分野の研究者から注目されている。一方潤滑油は,動力損失を小さくする摩擦低減作用,摩擦熱を運び去る冷却作用,油膜を張って水や酸素を遮断する防錆作用のために多くのプレス加工現場で使われている.しかし,潤滑油は廃棄による環境汚染が問題となっており,ドライコーティングによる無潤滑化への取り組みが増えている. 本研究では,DLCコーティングをプレス加工に応用することで環境負荷が小さく長寿命で,なおかつ時間効率の高い加工を実現する装置を開発することを目的とする.また,環境負荷の評価にLCA(Life Cycle Assessment)を用いて,原料の調達から廃棄・リサイクルまでライフサイクルでの温室効果ガス排出量等を評価する.本年度のDLC合成実験では,以下の知見を得た. ・単位合成時間を1秒から120秒まで変化させた繰り返し合成によりDLC膜を合成した. ・単位合成時間の短縮(合成の断続化)によって,成膜速度及び硬さが大きくなる可能性が示された. さらに,開発したサーボプレス機による精密プレス加工実験では,以下の知見を得た. ・Si-C:Hを中間層に導入することでDLCをパンチに密着性良くコーティングすることができた. ・穴抜き実験を行うことにより,DLCによる耐凝着性は充分に発揮されていることがわかった. また,環境負荷低減効果の評価にあたって潤滑油を使用した穴抜きプロセスとDLCコーティングを用いた穴抜きプロセスについてLCA分析を行い,潤滑油を使用した穴抜きプロセスとDLCコーティングを用いた新プロセスを比較してみると,前者のCO2相当排出量は,後者の約11倍であり,新プロセスの環境負荷低減効果の高さを示した.
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