本研究の目的は、マイクロ電極アレイを利用して顕微鏡観察下で任意の単一細胞を非侵襲的に脱離させる技術を確立することであった。これにより、細胞集団の中から特定の細胞を単離したり、不要な細胞を培養系から除去可能となることから、細胞培養を利用する幅広い分野の方法論を革新することができる。 申請者らはこれまで金電極上における電気化学的な細胞脱離を検討してきた。一方、金電極をマイクロアレイすると光の透過性の差異に起因してハレーションが生じ、電極上の細胞の観察が困難であった。そこで、透明電極(ITO電極)を利用した電気化学細胞脱離技術を確立した。まずITO電極上にアルカンチオールの自己組織化単分子膜を形成させ、XPS分析およびサイクリックボルタンメトリーにより、自己組織化単分子膜が形成され、なおかつ電気化学的に脱離することを確認した。その結果、-1.OV(vs.Ag/AgCl)程度の電位印加で自己組織化単分子膜が素早く脱離可能であることが分かった。次に、アルカンチオール自己組織化単分子膜を修飾したITO電極上に線維芽細胞を接着させ、電気化学的な単分子膜の脱離に伴って細胞も脱離可能かどうか評価した。その結果、40秒おきに撮影した画像から、細胞周囲から脱離が始まり次第に丸まってくる様子が観察され、そして5分以内にほぼすべての細胞が脱離した。また、共焦点顕微鏡観察により、細胞形態の変化をより詳細に解析した。最後に、ITO電極のウェットエッティング技術を確立し、よりシャープなエッジを持った微小電極を電極間距離50μmでアレイする技術を確立した。 そして、この電極アレイ上に線維芽細胞を接着させ、シングル細胞の空間分解能で、任意のタイミングで任意の位置の細胞を脱離できることを示した。
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