悪性化した癌は、組織内を「浸潤」して血管内に到達後、全身に転移して患者の命を奪う。従って、浸潤抑制法の確立が癌治療における喫緊の課題である。近年、癌の浸潤に多くの遺伝子が関与することが報告されており、対象とする癌細胞ごとにその浸潤を効果的に抑制するためのターゲット遺伝子を絞り込む技術が必要である。そこで、本研究では、様々なcDNAプラスミドやsiRNAを導入した癌細胞のアレイをコラーゲンシート上に転写し、シート上での浸潤を網羅的に解析するための技術の開発を行った。 H22年度は、癌細胞のマイクロアレイをコラーゲンゲル上に転写する条件の最適化を行った。自動スポッターを用いてPEG脂質のドット状パターンをガラス基板上に調製し、その上にヒト子宮頸癌HeLa細胞を固定化した後、I型コラーゲンから成るシートに転写した。細胞をガラス基板上からコラーゲンシートに移す際の細かい条件を最適化することにより、高効率に細胞アレイを転写できるようになった。その成果を論文にまとめて、現在投稿中である。さらに、PEG脂質表面上で核酸を細胞にリバーストランスフェクションする条件の最適化も行った。これより、核酸を導入した細胞のマイクロアレイをコラーゲンゲルシートに転写する技術が確立した。 癌細胞の浸潤を網羅的に可視化するために、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)による切断を可視化できる蛍光プローブの開発も行った。MMPの基質配列の両端に蛍光色素と消光剤とを修飾し、MMPによる切断前には蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)によって消光しているが、切断後にはFRETが解消して蛍光を発することを試験管画内で確認した。また、高浸潤性の癌細胞HT1080によってプローブが切断され、蛍光検出できることも示された。
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