悪性化した癌は、組織内を「浸潤」して血管内に到達後、全身に転移して患者の命を奪う。従って、浸潤抑制法の確立が癌治療における喫緊の課題である。近年、癌の浸潤に多くの遺伝子が関与することが報告されており、対象とする癌細胞ごとにその浸潤を効果的に抑制するためのターゲット遺伝子を絞り込む技術が必要である。そこで、本研究では、様々なcDNAプラスミドやsiRNAを導入した癌細胞のアレイをコラーゲンシート上に転写し、シート上での浸潤を網羅的に解析するための技術の開発を行った。 H22年度までに、PEG脂質表面に固定化した細胞に核酸をリバーストランスフェクションしながらコラーゲンゲルシート上に転写する技術を確立したので、H23年度はこの技術を用いて癌細胞の浸潤性評価系の構築を試みた。浸潤に関わる遺伝子に対するsiRNAを導入した細胞のアレイをコラーゲンゲル上に転写後、コラーゲンゲルで包埋し、三次元コラーゲンゲル内での各細胞スポットの拡がりを指標にその浸潤性を評価した。具体的には、浸潤・転移性が広く報告されているヒト線維腫細胞HT1080株をモデル細胞とし、種々の濃度で3種類のsiRNAを導入し、6~24時間後の細胞スポットの直径の変化を画像解析により求めた。その結果、HT1080の浸潤を抑制することが報告されているマトリックス金属プロテアーゼ(MMP9)に対するsiRNAの導入によってスポットの拡がりが著しく抑制され、一方、効果が無いことが知られているMMP1に対するsiRNAでは未処理の細胞と同程度のスポットの拡大が確認された。これより、今回開発した手法によって浸潤性の評価が可能であることが示された。さらに、細胞の遊走に関わるパキシリンに対するsiRNAの導入によって浸潤が抑制されることが明らかになり、本手法が浸潤抑制剤のスクリーニングに応用できる可能性が強く示唆された。
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