平成22年度に行った大腸菌や酵母のTG-DTA示差熱同時分析の結果は、明らかに複数の異なる温度領域において、微生物細胞の燃焼が起こることを示していた。この様な現象は、加熱炉の温度を熱重量分析結果を参照にしながら段階的に上昇させることにより初めて見出されるものでありこれまで全く報告されていなかった。そこで平成23年度には、この示差熱・熱重量同時測定法の微生物試料への適用技術を用いて、微生物細胞一般にこの様な複数の温度領域で発熱現象が認められるかどうかを調べた。その結果、脂肪酸を細胞内に多量に蓄積するカビMortirella alpinaIFO3228株の燃焼特性から、280℃から360℃の温度領域において、明確な発熱現象が観察されることがわかった。この特定温度領域における発熱量を、大腸菌や酵母などの対照微生物のそれと比較したところ、脂肪酸蓄積微生物と非蓄積微生物では、この特定温度領域における細胞乾燥重量当たりの発熱量が、互いに大きく異なることが確認できた。したがって、この温度領域で燃焼熱測定を行えば、熱測定だけで燃えやすい微生物を選択できる可能性が示唆された。微生物細胞は燃焼過程において大きな重量変化を示すが、その際に示差熱分析のベースラインが大きく歪むことが見出された。しかし、重量の異なる2つのサンプルを用いて示差熱分析を行い、両者のデータの差分を取ることにより、このベースラインの歪みの影響を最小限に抑えることが可能であることも分かった。
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