細菌はしばしば伸長する現象(フィラメント形成)を示すが、これには富栄養の好適な環境条件で伸びる可能性があるが、逆に貧栄養の環境条件で伸びた報告もある。さらには、天敵テトラヒメナが出すカイロモンを感知し、細菌体が伸長することで天敵が食われにくくなる効果としての誘導防衛である可能性も根強い。そのためまず、捕食者テトラヒメナのカイロモンがバクテリア(ここでは大腸菌)の形状などの表現型に及ぼす影響を調べるための1細胞計測系を構築した。当初の計画では、ガラス基板上にレーザーで微細加工により作製したマイクロチャンバ中にバクテリアを閉じ込めることを予定していた。しかしこの方法では、細胞の増殖によりマイクロチャンバ中の細胞密度が上昇し、長時間の影響評価が難しくなる。よって、増殖しすぎた細胞を自動的に取り除けるように工夫した1細胞計測系を構築した(特願2011-156767)。この計測系は、細い溝で大腸菌が増殖すると、両側の出口から増えた大腸菌が培養液とともに流れていく構造になっている。そして、細い溝で増殖している大腸菌の細胞の輪郭を画像解析し、その細胞の長辺を計測することで、フィラメント形成のデータが自動的に蓄積するものである。この計測系を捕食者テトラヒメナ-被食者大腸菌の混合培養系に応用したところ、テトラヒメナ用の2種類の標準的な培地1/10PYG、およびCDM最小培地中では、テトラヒメナが存在しなくても大腸菌が伸長してしまうことを明らかにした。これらの標準培地ではカイロモンの影響評価が難しいため、改変培地の作製に取り組み、1/10PYGに0.5%NaClを加えた培地では大腸菌の伸長を抑えられることを確認した。この伸長が抑えられた系で天敵のカイロモンを流すことで、バクテリアの形状がどのように変化するかを観測することが可能となった。
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