本研究の目的は、生物群集の中立理論を階層的に拡張し、ニッチ理論を取込んだ統合理論を構築することである。ここでの統合理論とは、実データに対応した尤度関数で記述され、現実の群集集合パターン(種数や種アバンダンス)を予測する統計モデルを意味する。具体的には、空間版コアレセント理論であるネイマン・スコット点過程モデルを、北方林から熱帯林の空間動態データに適用し、樹木種の分散パラメータを推定しようとしている。これより、種のニッチが顕在化し優占種が発生する機構を解明する。種の空間的な分散パラメータは中立理論の根幹であるが、方法論上の制約で定量が困難だった。本研究では、森林モニタリングデータに定常あるいは非定常のネイマン・スコット点過程モデルを適用し、種個体群形成に関与した親数・更新子数に基づいて、種の適応度格差を定量する。これら分散パラメータと、各森林のゼロサム緩和の度合い(非平衡性の指標)の対応関係を検証する。本研究で構築する統計モデルは、ゼロサム緩和を介した種間の適応度格差が種レベルのecological release(優占度の逸脱)に、どのように関わっているのかを分析する。よって本モデルは、種のニッチを反映させ、かつ種レベルの優占パターンを明示的に予測する。今年度は、北方林から熱帯林までの空間構造の動態データを分析した。特に北方林については、非定常ネイマンスコットモデルと定常ネイマンスコットモデルそれぞれを適応し、分散パラメータをうまく推定できることが判明した。また、森林を構成する種間の分散パラメータの変異もうまく推定できる可能性が判明した。前者の非定常ネイマンスコットモデルを用いた分析結果は、論文として取りまとめ、生物統計学関連の国際誌に投稿することができた。これらの成果は、カナダで開催される森林管理に関する国際学会で発表予定である。
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