研究概要 |
群集進化理論を集団遺伝学の側面から補完することを目的に,種内変異存在下の確率的な群集動態を記述する進化モデル(確率微分モデル,離散時間モデル,出生-死亡モデル)の開発を進めた.シミュレーション解析を重ね,各モデルの解析精度と計算速度を対比し,各近似計算が有効となるパラメータ領域を検討した. 1,確率微分モデル(A):対立遺伝子頻度変化の拡散理論を基に,二種系の確率的な進化動態を近似的に記述する確率微分方程式モデルを構築し,数値解析を進めた.前年度までの解析から,特に世代時間の種間差が大きいと,時間軸を世代時間の短い種に合わせて細かいグリッドに分割する必要があり,計算時間が非常に長引くことが明らかにされていたため,近似精度と計算効率に鑑み,計算パラメータのチューニングを進めた. 2,離散時間モデル(B):二種系の確率的な進化動態を記述する離散世代モデルの数値解析を進めた.拡散近似の下では時間軸の尺度を変換する簡単な関係式が成り立つことを利用し,世代時間の異なる二種の同時進化を旧来的な離散世代モデル(Fisher-Wrightモデル)で近似した.更に,モデル(A)の解析結果と対比し,計算時間や解析精度を指標に,各モデルが近似的に有効なパラメータ領域の検討を進めた. 3,出生-死亡モデル(C):前年度までは予備的な解析に留まっていた分枝過程モデルの開発および解析を本格的に開始した.本年度の解析から,解析の精度,計算速度の両面において,モデル(C)が広範囲に及ぶパラメータ領域においてモデル(A),(B)を上回ることを確認した.更にシミュレーション解析を重ね,モデル(C)が優れた成績を収めるパラメータ領域を詳細に吟味すると共に,当該領域において,モデル(C)の成績が上回る要因を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数値計算に膨大な計算時間を要するため,シミュレーションモデルの改善も遅れがちであったが,より高い演算処理能力を備えた計算機器を導入することで解析環境の充実を図り,更に分枝過程モデルに基づく洗練されたシミュレーション法を開発することで計算解析の効率化を実現した結果,モデル解析も順調に進捗している.
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今後の研究の推進方策 |
計算解析の効率化を進めた結果,定められた研究期間内に,当初の研究目的を達成する見込みは立ったが,実用に適うシミュレーションモデルを開発するまでには至っていない.計算解析の一層の効率化を図るため,来年度は,より高度な演算処理能力を備えた並列計算システムの利用を検討する他,計算解析分野の研究者からの情報収集に努める.
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