高等植物の多くは低分子のイソプレノイドを生産するが、特に炭素数5のイソプレンは数多くの樹木植物、主にヤナギ、ポプラ、ユーカリといった広葉樹から活発に放出される。これまでの研究経緯から、イソプレンの放出が植物の高温耐性に関与すること、またイソプレンを放出する形質転換体では葉面温度の低下が認められることが分かっている。本研究では、その機構の解明を試みた。 ポプラ属植物のイソプレン合成酵素IspSを発現させたシロイヌナズナを用いて、蒸散量の上昇を介した葉面温度の低下に直接的に関与するアブシジン酸(ABA)の含量を調べた所、形質転換体と野生型とで大きな差はなかったが、高温処理時にABA含量が形質転換体でも野生型でも有意に上昇することが認められた。一方、IspS形質転換体の蒸散量の測定を行ったところ、野性株に比べて若干蒸散量が高い傾向を示した。 次いでABAの分解酵素の変異によりABA高蓄積体となった植物、またABA欠損形質転換体について高温耐性の試験をした所、どちらの変異体植物も、高温処理に対しては感受性が上がっており、これらの結果から、イソプレン放出による植物の高温耐性は内在性ABA含量と直接の関係はないと結論づけた。次なる高温耐性獲得メカニズムの可能性として、現在イソプレンの持つ活性酸素除去作用について解析を進めている。 さらにイソプレンの生体内基質供給において中心的な役割を担っている非メバロン酸経路(MEP経路)の代謝フローにも着目し、各生合性遺伝子の高発現シロイヌナズナのリソースを理研の協力を得てそろえ、蒸散量の測定などを行っている最中である。これらを総合し、なぜイソブレン放出植物が高温ストレスに対して体勢を獲得することができるのかを明らかにする予定である。
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