イソプレン合成酵素(IspS)の発現により、シロイヌナズナが60度、2.5時間の熱処理に対して耐性を獲得することから、そのメカニズムの解明を目的とした。プラスチドにおいてMEP経路で生産されるものには種々の植物ホルモンがあり、中でもABAは気孔の開閉に直接関係することから、ABAを中心にオーキシン、サイトカイニンなど網羅的に調べた。しかし、熱処理中に内在性ABAの含量が上昇する現象が認められたものの、野生型と形質転換体で有意な差はなかった。 代謝産物に関する変動も、ハイスペックのLC-MSを用いて調べたが、個体間の変動が大きいこともあり、明確な差を見いだすにはいたらなかった。 一方、熱処理直後は形質転換体でも同様に強度のしおれが認められたが、その後23度での培養によりIspS形質転換体の回復が有意によいことから、60度、2.5時間という急性の熱ショックにおける耐性と、その後の回復は全く別のプロセスであると考えられた。そのような中、タバコをホストにしてイソプレン合成酵素を発現させると、オゾン傷害抵抗性を示すとの知見が発表された。このことから、イソプレンが大気中でOHラジカルの捕捉剤となるという大気化学的知見もあわせ、熱ストレスを負荷下、チラコイド内で発生する活性酸素種の消去にイソプレンが貢献していることが示唆された。さらに、イソプレンがチラコイドの脂質二重膜の物理化学的安定性を増しているとの提案もあり、これらの総合的な効果がIspS遺伝子の発現による熱耐性の獲得につながっていると考えられる。
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