被子植物の受精では、2つの雄性配偶子(精細胞)が2種類の雌性配偶子(卵細胞と中央細胞)とそれぞれ合体「重複受精」を行う。重複受精は有性生殖を行う生物種の中でも被子植物特有の現象である。被子植物の配偶子細胞には細胞壁が存在しないため、受精時の雌雄配偶子相互作用は原形質膜に存在する分子によって制御されていると考えられる。そこで本研究は、重複受精を成立させる配偶子細胞特異的な分子の発見と機能解明を最終目的とした。 配偶子の細胞膜にエピトープタグを発現させて、配偶子細胞膜上に存在するタンパク質の精製と同定を行う研究アプローチを計画した。精細胞、卵細胞、中央細胞特異的発現をもたらすプロモーターの下流に原形質膜局在性タンパク質とGFPの融合遺伝子を連結させたカセットをシロイヌナズナに形質転換し、配偶子膜蛍光マーカーラインを作出した。これらは顕微鏡下で明瞭な蛍光シグナルとして観察されるため、変異体の解析などにも利用可能である。なお、このマーカーラインを用いたイメージング解析によって、重複受精時には雌雄配偶子の原形質膜融合が起きていることも示し、学術論文としてアクセプトされている(J. Plant Res 2013 in press)。 卵細胞膜GFPマーカーラインを材料として雌ずいを回収し、GFP抗体を用いたpull-down法によって、卵細胞膜タンパク質の精製を行った。コントロールとして野生型についても同様に精製を行い、精製タンパク質のプロテオーム解析を行った。同定タンパク質のうち、推定膜貫通領域をもつ因子について、T-DNA挿入変異体の表現型を調査した結果、種子稔性が著しく低下した変異体を見出している。今後はこの変異体を対象として、重複受精における分子の機能解析を行っていく予定である。
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