昆虫の表皮細胞層や植物の葉の表皮など、シート状の細胞の配列がどの様に制御されているか、体系的に解析することは発生学の重要な問題である。これらの細胞のシートは1層のシートの事が多いが、その内側に別の細胞層や細胞塊が存在し、シート形成に影響を与える。車軸藻類のコレオケーテ(Coleochaete scutata)は、細胞が1層に並んだ円盤状の単純な形をしており、1層の細胞シート以外に、その形成に影響を与える細胞は存在しない。そのため、細胞シート形成が、シートを構成する細胞のみで行われ、比較的単純なモデル系になりうる。また、光学顕微鏡での観察が容易な上、ボディープランを考える上で進化的に興味深い位置にある生物である。このコレオケーテをplaner cell polarity研究の新しい実験系として確立することを本研究の目的としている。今年度はコレオケーテの無菌培養系を使い、顕微鏡下で長時間の撮影を試みた。シャーレの底と蓋にカバーガラスを貼付けたシャーレを使用し、蓋のカバーガラスもデフローストのものにする事で、倒立顕微鏡での微分干渉光学系を使った数週間の観察を可能にした。経時的に3Dで細胞壁と葉緑体の位置を解析する目的で、蛍光プローブで細胞壁を染色し、スペクトルイメージングを使用して、細胞壁の蛍光と葉緑体の蛍光を明確に識別できる方法を確立した。また、GFPなどの蛍光プローブで形態形成に関与する分子の挙動を観察する為には、遺伝子を導入するシステムを確立する必要がある。そこで、パーティクルガン遺伝子導入装置を購入し、セットアップした。今後、この装置を使って、細胞内での分子のダイナミクスを観察できる方法を確立する予定である。
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