研究代表者らは発生遺伝学的な操作により眼点視細胞を完全に欠いたホヤ幼生が、光に応答した運動を示すことをみいだした。この視細胞をもたない幼生の脳には、メラノプシン型のオプシン遺伝子が発現している。本研究では、メラノプシンが視細胞欠損幼生の光応答を担っているという作業仮説に基づいて、この光応答の発現機構の解明に取り組んでいる。2010年度は次の成果を得た。 ホヤ幼生の眼点視細胞以外の細胞で発現するオプシン遺伝子を探索したところ、メラノプシンに加え、繊毛型オプシンCi-opsin2の遺伝子も特定の神経細胞で発現することが示唆された。それぞれのオプシンを発現する細胞の同定と両者の相互関係を明らかにするために、遺伝子の発現調節領域を単離し、蛍光レポーターに連結した融合遺伝子を組込んだプラスミドを構築した。メラノプシンについてはまだ結果が得られていないが、Ci-opsin2については、プラスミドをホヤ胚に導入し、眼外オプシンを発現する細胞の種類や形態、シナプス標的を解析した。Ci-opsin2を発現する細胞は、付着突起、脳胞の一部と運動神経節の中央部にみられ、運動神経節の細胞は交叉性の軸索を神経索に沿って尾部中央まで伸ばしていた。付着突起の細胞は脳胞後部に軸索を伸ばす神経細胞であった。otxをノックダウンしたホヤ幼生(otxモルファント)は、眼点視細胞をもたないが、光刺激に対する反応を示す。Ci-opsin2を発現する細胞のうち、運動神経節の細胞はotxモルファントに存在すると考えられ、メラノプシン細胞と並んでotxモルファントの光受容を担う可能性がある。また、眼外オプシンによる行動制御の系統進化学的な理解と普遍性を解明するために、他の後口動物における類似現象の探索に着手した。
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