研究概要 |
大台ケ原では無脊椎動物の生物多様性調査を行った.垂直断崖の各所に誘引剤を入れたトラップを仕掛け,断崖に生息する無脊椎動物類を捕獲調査した.その結果,バッタ類とアリ類が捕獲された.周囲森林でも同様の調査を行い比較したところやや種数は落ちるもの,相当数の無脊椎動物類が垂直断崖には生息していると考えられた.今後は正確な種の同定やDNA解析を行い断崖における系統的多様性の特性について明らかにする予定である. 屋久島では,特殊な垂直断崖の形態である「滝」についての調査を行った.特に「ボウズハゼが藻類の採餌場所として滝を利用している」という仮説に基づいて調査等を行った.屋久島の河川は河畔林がよく発達し,河川内は暗い状態になっている.しかし地形的に垂直断崖になり滝になっている場所は開けて明るくなっており藻類の生産性が高い.ボウズハゼは垂直の滝に吸い付いてその滝を登ることが知られているが,本研究ではそのような行動が,滝の壁面にある付着藻類を食するためではないかという仮説を持っている。残念ながら22年度は本仮説に関しては事前調査にとどまったが今後解明されれば,垂直断崖である滝が魚の採餌場として機能しているという新規な研究になると期待している. 西表島では,やはり同様に垂直断崖である滝が,魚類に対してどのような生態的機能有しているのかを調査した.その結果,西表に点在する滝の上にはキバラヨシノボリと呼ばれるヨシノボリ類が各所に生息していた.滝上には外の淡水魚は生息しておらず,一方,滝下でキバラヨシノボリが生息する場所はなかった.他種との種間競争などにより生息できないものと考えられる.このように滝があることでキバラヨシノボリの生息が確保されていると考えられ,滝が魚類生物多様性の維持に大きな役割を果たしていると考えられる,今後は,キバラヨシノボリのDNA解析を進めていく予定である.
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