研究概要 |
本年度は断崖の特殊な形態である「滝」の進化生態学的な意義を明らかにした.調査研究の対象は西表島におけるクロヨシノボリ(Rhinogobitus brunneus)とキバラヨシノボリ(Rhinogobius sp.YB)と、した.西表島はその地質学的特性のため多くの滝が多く存在するが,西表北部の河川を網羅的(11河川30地点)に調べたところ,キバラヨシノボリは滝上(落差3m以上)に限って生息することが明らかになった,さらに,クロヨシノボリをはじめとする回遊魚・汽水魚は滝上にはほとんど生息しなかった,一方,ミトコンドリアDNA(ND5とCytB:計2000bp)における解析を行ったところ,キバラヨシノボリは各個体群ごとにまとまりを形成し,ネットワークの外側に位置した.一方,クロヨシノボリは捕獲地点ごとにまとまりを形成することなく,ネットワークの内部にランダムに位置した.このことから,キバラヨシノボリは回遊型のクロヨシノボリからそれぞれ独立に滝によって陸封され,進化したと考えられる.その一方で,それぞれに独立したと考えられるキバラヨシノボリの各個体群はほぼ同一の形態を示した.このことから,キバラヨシノボリはクロヨシノボリは平行進化したものと考えられる.さらに,各キバラヨシノボリ個体群からクロヨシノボリ全体までの集団間遺伝距離は滝の高さ(6m~57m)と有意に比例した.滝や崖は硬さの違う地層が風化して形成されるが,滝の高さが各キバラヨシノボリ個体群め隔離された時間を示すものと考えられる.本研究ではキバラヨシノボリにお2る平行進化を明らかにするとともに,それが「滝」という地形的な要因によりもたらされたことを明らかにした.
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