断崖の一つの形態である「滝」についてその生態学的および進化学的な意義を明らかにした。 西表島に生息する淡水魚「キバラヨシノボリ」は、クロヨシノボリから各滝上でそれぞれ独立に進化したことを明らかにした。西表島の河川は、かつてはなだらかで滝はなく、回遊魚であるクロヨシノボリが上流域にまで遡上・分布していた。しかし浸食作用により各所に滝が形成されることでクロヨシノボリが隔離され、クロヨシノボリとは別の形態を示す「キバラヨシノボリ」へと進化したと考えられる。各滝上の「キバラヨシノボリ」は遺伝的にはそれぞれ独自に進化したが、一方で形態は同一であり、「平行進化」の典型的な例と考えられる。さらにクロヨシノボリと各滝上の「キバラヨシノボリ」との遺伝的距離は、各滝の高さと比例した。例えば、沖縄県で最も高い滝とされるピナイサーラの滝(59m)の上に生息する「キバラヨシノボリ」はクロヨシノボリと遺伝的に遠く離れているが、低い滝の上に生息する「キバラヨシノボリ」はクロヨシノボリと遺伝的に近い。これは「キバラヨシノボリ」がクロヨシノボリから隔離された歴史を物語っている。滝は地形の浸食作用を受けて徐々に形成されるため、滝の高さは「キバラヨシノボリ」が隔離された時間(=遺伝的距離)を意味する。ヨシノボリ類の進化速度は既に知られており、その値をあてはめると、西表島は年間0.67mmほど地形の浸食作用を受けていると推定される。本研究成果は、2012年7月1日付けで米国科学誌「Ecology and Evolution」にオンライン掲載された。 一方、屋久島(なお本島にキバラヨシノボリは分布しない)においては、滝上で陸封されたクロヨシノボリは種間競争や種内競争が皆無であるため、ボウズハゼ等と競争する滝下のクロヨシノボリ個体群と比較して食性が大きく異なることを、安定同位体(窒素および炭素)解析により明らかにした。
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