これまでほとんど知られることのなかった垂直断崖の動物生物多様性と、垂直断崖の持つ生態的・進化的機能を明らかにすることができた。前者においては大台ケ原にて調査を行い、断崖壁面における動物多様性は周囲森林として比較して有意な差は示されなかった(ただし代表者の別の研究で植物多様性は断崖と周囲森林とで差異があることが示されている)。 一方後者においては西表島にて調査を行い、 地形侵食により河川に断崖ができ滝が形成され、その結果回遊性淡水魚 (クロヨシノボリ) が陸封・隔離され、 別の種へと種分化 (キバラヨシノボリ)したことが明らかになった。くわえてこのような種分化は各滝上で独立に起きており、遺伝的にもそれぞれの個体群が独立であるのにもかかわらず、同じ形態を示しており「平行進化」の典型的な例と考えられる。各滝上の陸封個体群と回遊個体群の遺伝距離は、滝の高さと比例しており、上記の仮説をさらに強化するものであった。また、遺伝的距離から地形侵食の速度を計算すると、例えば西表島にある沖縄県最大の滝「ピナイサーラの滝」は約8 万年かけて形成されたことが推定される。
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