研究概要 |
タンパク質は,生体内で離合集散系を含む集合体を形成し,高度に制御された仕組みで動的に働く.その仕組みにおいては,各々のタンパク質から形成されるヘテロ複合体や同一酵素の異なる反応フォームから形成されたヘテロ複合体が同時に存在することがある.21世紀に入り,分子生物学は,個々の遺伝子とその産物であるタンパク質を基盤とした研究を超え,離合集散系における分子の集合体形成と高度に制御された働きの仕組みを解き明かす新局面を迎えている.その仕組みを解明する上において,様々なヘテロ複合体の形成を自由自在に制御することができるならば,分子生物学の様々な新たな展開を導き出すことができよう.本研究は,バイオインフォマティクス,タンパク質工学,遺伝子工学を駆使し,ヘテロ2およびヘテロ3量体形成を制御・促進できる汎用のタグをデザイン・作製することを目的としている. 本年度は,タンパク質立体構造のデータベースPDBに登録された3A分解能以上のタンパク質結晶構造から,タンパク質に人工的なヘテロ多量体形成を導入するためのタグ(HA-tag)の候補ペプチドの探索を行った.その結果,PDBに登録された約6万5千個の結晶構造から,ヘテロ2量体を形成するHA-tagの5種類の候補を見つけた.さらに,転写因子SarSとribosomalタンパク質P1-P2を含む合計7つのHA-tag候補について,自由エネルギーの変化(-△G)を計算し,2種類のHA-tagを選抜し,実験へと進めた.構造解析されたタンパク質ヘテロ複合体のデータが少なかったため,In silicoサーチ方法の開発には時間がかかった.融合タンパク質の大量調製やヘテロ複合体形成の検討までは辿り着けなかったが,簡単に様々なタンパク質を融合できるためのHA-tagベクターの作成に成功し,モデルタンパク質へ融合したサンプルの発現系構築を行った.
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