小胞体は分泌タンパク質の折り畳みなどを司る細胞内小器官である。タンパク質分泌が盛んな細胞では、小胞体が伸展し、網目状形態から層状形態へと変化する。酵母を例にとっても、Saccharomyces cerevisiaeに比べて、タンパク質分泌が盛んであるPichia pastorisでは発達した小胞体を有している。分泌が盛んな細胞は、常に小胞体ストレス状態にあるようであり、小胞体ストレス応答経路が恒常的に活性化されている。そして、小胞体の形態変化は、少なくとも一部は、小胞体ストレス応答に因るようである。 小胞体小胞体局在膜タンパク質Ire1は、小胞体ストレス応答の引き金となる因子である。Ire1はキナーゼドメインとRNaseドメインを有し、自己リン酸化依存的にHAC1 mRNAをスプライシングする(=成熟させる)。成熟したHAC1 mRNAの翻訳産物は転写因子として働き、小胞体タンパク質の発現誘導を通じ、ストレスを緩和へと向かわせる。しかし一方、小胞体の形態変化では、Ire1はHAC1非依存的にも働いているようである。そこで本研究では、HAC1非依存的なIre1の機能を検索した。 まず本研究では、小胞体膜局在亜鉛トランスポーターZrg17がIre1と会合していることを見いだした。Ire1はZrg17をリン酸化する。また、Zrg17の存在量もIre1により制御を受けているようだ。すなわち、Ire1はZrg17に直接的に作用し、サイトゾルから小胞体への亜鉛イオン輸送をコントロールしているのであろう。小胞体の恒常性維持には亜鉛イオンも重要であり、本研究での知見は、HAC1依存的な転写調節とは異なる様式でも、Ire1が小胞体の恒常性維持に働いていることを示す事例になると考えている。
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