研究概要 |
本申請研究では,硫酸還元菌由来の水素酸化還元酵素・ヒドロゲナーゼのNi-Fe活性部位における水素活性化の反応中間体を,中性子結晶解析法により直接観察することを主目的とする.そのために最終的には分子中の全ての水素原子を重水素に置換した酵素試料を調製することを目指す.本酵素の基質は「水素および重水素」である.従って,構造中に(重)水素を「直接に精度良く見る」ことが可能な中性子結晶解析法は最適の研究手法である.中性子回折実験において,試料中の水素原子は,非干渉性散乱の割合が大きいためバックグラウンドを上げて回折データのS/N比に多大な悪影響を与える。 そこで,平成22年度は,通常の野生(水素)型ヒドロゲナーゼ試料を,重水中で,重水素化した沈殿剤(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)を用いて結晶化したところ,約4mm^3の単結晶の調製に成功した.得られた結晶を,日本原子力開発研究機構の実験炉で得られる中性子線を用いて回折実験を行ったところ,7A分解能の回折パターンの取得に成功した.さらに,本結晶を最近開発された中性子回折実験用の試料凍結装置を用いて,100Kにて回折実験をしたところ,分解能は5A分解能まで到達した.現在,さらなる分解能の向上を目指して結晶化条件の改善を進めている.また,タンパク質の全水素原子を重水素にするため,重水中で重水素化培地を用いての硫酸還元菌の培養条件の検討を進めている.
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