研究概要 |
本申請研究では,硫酸還元菌由来の水素酸化還元酵素・ヒドロゲナーゼのNi-Fe活性部位における水素活性化の反応中間体を,中性子結晶解析法により直接観察することを主目的とする.本酵素の基質は「水素および重水素」である.従って,構造中に(重)水素を「直接に精度良く見る」ことが可能な中性子結晶解析法は最適の研究手法である.中性子回折実験において,試料中の水素原子は,非干渉性散乱の割合が大きいためバックグラウンドを上げて回折データのS/N比に多大な悪影響を与える. そこで,平成22年度は,酵素・ヒドロゲナーゼ中のすべての水素原子を重水素原子に置き換えることを計画し,重水素化した培養試薬を用い,重水中で硫酸還元菌の培養を計画した.しかし,結晶化実験に十分な量の精製酵素を得ることは困難であった.平成22,23年度にかけて,通常の野生型ヒドロゲナーゼ試料について,重水中において,重水素化した沈殿剤(2-メチル-2,4-ペンタンンジオール)を用いて良質で大きな単結晶を得るための条件を探索し,約4mm^3の単結晶の調製に成功した.平成22年度に,得られた結晶を日本原子力研究開発機構の原子炉において,最近開発された中性子回折実験用の試料凍結装置を用いて,100Kにて回折実験をしたところ,最高分解能は5A分解能まで到達した.平成23年度は,東日本大震災の影響で原子炉が稼働しなかったため,中性子回折実験はできなかった.そこで,結晶の凍結条件の探索を続け,主にX線回折法によりその条件を評価した.その結果,昨年度よりもモザイク性の低い回折データを得られる凍結条件を得た.また,タンパク質の全水素原子を重水素にするため,重水中で重水素化培地を用いての硫酸還元菌の培養条件の検討を進めている.
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