老化や代謝に関わる制御因子として注目されているNAD^+依存性脱アセチル化酵素Sirtuinファミリーの研究が近年急激な広がりを見せており、老化、代謝や概日時計の分子基盤を理解するためには、1細胞内でのNAD^+動態の時空間情報を知ることが重要になってくる。しかし従来のNAD^+分析法では、細胞を破壊して組織抽出液中のNAD^+を測定するため、個々の細胞の持つ時空間情報が失われてしまう。そこで本研究では、Fluorescent Resonance Energy Transfer(FRET)法により細胞内NAD^+を可視化するためのFRETプローブ開発を行った。昨年度までに、異なる作用機序により細胞内NAD^+量を減少させることが知られている薬剤H_2O_2とFK866処理を行ったそれぞれ培養細胞でFRETが起こるプローブを見出した。今年度は、FRETプローブ精製標品を用いて、試験管内でNAD^+および類似代謝物(NADH、ニコチンアミドなど)に対するFRETプローブの特異性の検証を行った。まずFRETプローブ精製標品を得るため、大腸菌を用いたタンパク質精製を行った。精製条件を検討した結果、FRETプローブを可溶性画分に高純度で得ることに成功した。この精製標品を用いてin vitroでNAD^+に対する特異性を検証したが、NAD^+濃度によらずFRETが起こっていた。この結果は、すでに精製標品はNAD^+と結合している可能性を示している。今後、NAD^+と結合していないFRETプローブ精製の条件検討を行い、FRETプローブのNAD^+特異性を検証し、細胞内NAD^+量を可視化するFRETプローブを完成させる。
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