アクチン骨格、細胞接着斑に局在する力感知分子を複数同定することに成功した。そのひとつは、細胞を伸展するなどして力刺激を加えると細胞質から核内にシャトルする。また、マウスにおいて、大動脈を結紮して左心室に過大な圧負荷をかけても、細胞質から核内に速やかにシャトルすることを確認した。興味深いことに、この因子はC末端側に強力な転写活性化ドメインを持っている。 そこで、転写にどのような影響を持つのか、代謝に特化して解析したところ、脂質代謝を調節する核内受容体を強力に活性化することがわかった。このことは、血圧上昇、運動などによって心筋/骨格筋に力学負荷がかかると、組織のエネルギー要求に応える形で脂肪が燃焼し、ATP産生が増加することを意味している。また、この知見は、力学刺激が代謝を直接制御することを示している。この他にも、C2C12細胞に導入すると脂肪細胞/骨格筋細胞への分化を変化させる因子を同定した。この因子も、伸展、せん断応力負荷などの力学刺激によって細胞接着斑から核内にシャトルする。 以上の知見から、力刺激は代謝を想像以上に直接的な経路から調節していることが明らかとなった。また、力刺激を感知する分子を複数同定したことによって、研究を発展させるための重要な端緒をつかむことができた。加えて、いくつかの力感知分子の遺伝子をノックアウトしたマウスの作製にも成功した。東日本大震災で、ゼブラフィッシュのすべてを失ったが、長期の停電でもマウスは維持できた。研究室の復旧に時間を要したが、今後の発展の基盤を作ることができた。
|